新型コロナウイルスの影響で不織布マスク(使い捨てマスク)、消毒用アルコール等の品不足が続く中、「首にかけるだけでウイルスを除去できる」等と新型コロナウイスルに対する予防効果を標榜する「ウイルスブロッカー」が売れていると言う。
※「ウイルスブロッカー」の商品名はメーカーによって異なる。
※「ウイルスブロッカー」を「見えないマスク(エアーマスク)」と呼ぶこともある。
「ウイルスプロテクター」「ウイルスシャットアウト」は特に注目さている。
これらの「首かけウイルスブロッカー」はコロナウイルスに効果はあるのだろうか?
専門家の意見をまとめてみた。
ウイルスブロッカーとは?
ウイルスブロッカーは最近出てきた商品ではなく、少なくとも7年以上前から、インフルエンザウイルスなどに予防効果があると宣伝されている。
ウイルスブロッカーのウイルス予防効果の根拠
メーカーがインフルエンザなどのウイルスに対して予防効果があると主張する根拠は、二酸化塩素にある。
ウイルスシャットアウト
例えば、「ウイルスシャットアウト」のAmazon商品ページには以下の記述がある。
開封した時から二酸化塩素配合の除去・除菌成分が周囲に浮遊するウイルスや菌、花粉を除去します。
流行性のウイルスや、この時期辛くなる花粉症からあなたを守ります。
二酸化塩素に殺菌効果があることは知られている。
エアブロッカー
新聞に広告が掲載されていた除菌消臭「エアブロッカー」の場合、以下の記載がある。
この二酸化塩素の働きを根拠に複数のメーカーが「ウイルスブロッカー」を販売してきた。
過去から現在に至るまで公的機関や専門家は「ウイルスブロッカー」の効果をどう見てきたのか?
具体的に見ていく。
空間除菌剤「ウイスルプロテクター」
消費者庁の対応
使用中止
消費者庁は「首からぶら下げるタイプの携帯型空間除菌剤『ウイルスプロテクター』については、平成 25年(2013年)2月18日、化学熱傷を起こすおそれがあるため使用中止を呼び掛けている。
これは、「ウイスルプロテクター」を使用した消費者から「やけど」等の事故情報が複数寄せられた為だ。
【補足】
製品に関する事業者
ア 発売元 株式会社ダイトクコーポレーション
イ 輸入元 ERA Japan 株式会社
自主回収
そして、平成 25年(2013年)2月22日には、自主回収行なうことを決定した旨を公表している。
※出典元:次亜塩素酸ナトリウムを含むとの表示がある「ウイルスプロテクター」について(使用中止及び自主回収のお知らせ)
消費者への喚起と使用上の注意事項
消費者庁は前述のように自主回収をメーカー側に要請したが、回収率がまだ25%であることを受けて、平成 25年(2013年)3月29日に、消費者に呼びかけを行っている。
①「ウイルスプロテクター」をお持ちの方は、使用せずに窓口に連絡
②携帯型空間除菌剤の使用についての注意事項
※出典元:次亜塩素酸ナトリウムを含むとの表示がある「ウイルスプロテクター」の自主回収及びその他の携帯型空間除菌剤の使用上の注意事項について
「ウイルスプロテクター」の問題点
「ウイルスプロテクター」で何故、やけど等の事故は発生したのか?
それは、「ウイルスプロテクター」には次亜塩素酸ナトリウムが使われていたことにある。
次亜塩素酸ナトリウムは漂白剤のハイター等に使われ、除菌効果がある。
新型コロナウイルスの接触感染を避ける為に、ドアノブ等物の消毒にWHO並びに厚生労働省も使用を推奨している。
しかし、人体には有害である。
消費者庁も前述のアナウンスでは、『「ウイルスプロテクター」は、成分が肌に触れることで、化学熱傷を引き起こすおそれがあります。」としている。
独立行政法人国民生活センター
独立行政法人国民生活センターも平 25年(2013年)4月30日に「首から下げるタイプの除菌用品の安全性」を公表している。
二酸化塩素による除菌をうたったウイルスブロッカーの安全性についてテストしている。
その結果、6銘柄中3銘柄で、「中等度の刺激性」と評価された。
※自主回収となった銘柄は「強い刺激性」と評価された。
独立行政法人国民生活センターはこの実験結果を受け、消費者へのアドバイス及び業界・事業者への要望を発表した。
※出典元:首から下げるタイプの除菌用品の安全性 【国民生活センター】
消費者庁の公表を受けて、茨城県医師共同組合が声明を公表している。
茨城県医師共同組合
茨城県医師共同組合では、エンブロイ株式会社が製造販売している「ブロッカー」(旧名称:ウイルスブロッカー)を取り扱っているが、使用中止及び自主回収の対象となった「ウイルスプロテクター」とは内容が異なるので安全だと主張している。
また、危険性のある次亜塩素酸ナトリウムや粉末状の酸等は使用しておらず、今回問題となった「ウイルスプロテクター」とは全く異なる内容成分で作られています。
※出典元:空間除菌をうたった「ウイルスプロテクター」の報道について【茨城県医師共同組合】
さて、「ウイルスプロテクター」に関する問題を取上げたが、これは次亜塩素酸ナトリウム等を使用したことによるものであり、その「効果」について云々されたわけではない。
この問題以来、ウイルスブロッカーは二酸化塩素を使用している。
では、二酸化塩素を使用したウイルスブロッカーの効果について専門家や公的機関はどう考えているのか?
次にご紹介する。
ウイルスブロッカーの効果
宮崎県薬剤師会
ですので、生活の中でこの商品を使用してどの程度の除菌効果があるのか現状*ではわからないということになります。
また、医薬品や医薬部外品でなければ、効き目や効果を宣伝して売ったりはできません。
*記事の日付は不明
※出典元:二酸化塩素による除菌をうたった商品について【宮崎県薬剤師会】
学校保健
また、たとえ、二酸化塩素がウイルス等を死滅させる事実があっても、日本においてウイルス感染を予防できる旨を商品の効果・効能として表示するには厚生労働大臣による医薬品としての製造販売承認が必要である。現状としては医薬品として販売されている製品はなく、雑貨として販売されているにもかかわらず不適表示・広告している製品がみられることから、注意が必要と考える。
二酸化塩素(CIO2)ガスは次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン、ハイター等)の約2.5 倍の酸化作用を有し、芽胞を含むすべての微生物に有効である。しかし、診療所内などの環境消毒に二酸化塩素ガスを使用することは毒性及び効果などの点において勧められない。
※出典元:Q&A 二酸化塩素による除菌等をうたった製品の使用について【学校保健】2014/03/12
二酸化塩素による除菌をうたったウイルスブロッカーについて、宮崎県薬剤師会も学校保健も「医薬品ではないので効果は謳えない」と主張しているが、これはあくまでも表記の問題。
実際にウイルスブロッカーに効果があるのかないのかについては「分からない」としている。
しかし、2017年になってようやく、実際の効果を検証したレポートが発表された。
J-Stage(環境感染誌)
J-Stage(環境感染誌)では、西村秀一氏が「身体装着型の二酸化塩素放散製剤の検証」を行った結果を報告。
検証対象は、「首から名札のようにぶら下げるタイプあるいはポケットに挿すペンのような形状で身体に装着させ,顔面に近いところでの二酸化塩素のガスの放散によるウイルスや細菌の除去を標榜する市販の4社の4製品。
結論としては、「すべての製品で,少なくとも用いたウイルスや細菌に対して標榜されているような抑制効果はまったく認められなかった」
※出典元:身体装着型の二酸化塩素放散製剤の検証【J-Stage(環境感染誌)】(2017年3月3 日受付・2017 年 4 月 13 日受理)
そして、2020年3月10日。
消費者庁は「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について」を発表した。
消費者庁
消費者庁の発表はあくまでも表記上の問題だ。
ウイルスブロッカーの効果のあるなしを断じたものではない。
現代段階では、新型コロナウイルスに対する予防効果は不明なので、予防効果は謳えない、と言っているに過ぎない。
※出典元:新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について
空間除菌剤「ウイルスシャットアウト」
BIGLOBEニュースでは『空間除菌剤「ウイルスシャットアウト」の発売元の東亜産業は、誤解を与える表示を行わないよう販売店に呼びかけている。』と報道した。
空間除菌剤「ウイルスシャットアウト」は大手通販サイトで販売さており、今、売れているウイルス対策グッズの1つだ。
ウイルスブロッカーの新型コロナウイルス予防効果【まとめ】
効果効能は謳えない
まず、ウイルスブロッカーは医療機器ではない。
従って、予防効果を謳う事は出来ない。
※効果効能を謳うと薬事法違反になる。
新型コロナウイルスに対する予防効果は確認できない
次に、現段階で、首からさげるウイルスブロッカーの新型コロナウイルスに対する予防効果は実証されていない。
従って、新型コロナウイルスに他する感染予防効果を消費者に期待させる表現もNG。
※謳うと誇大広告となり景品表示法等に違反
一般的なウイルスに効果はあるのか?
特定のウイルスに対して、ウイルスブロッカーは効果があるのだろうか?
これに関しては、2017年の西村秀一氏の「身体装着型の二酸化塩素放散製剤の検証」では、対象4商品に効果は認められなかった。
だからと言って、他のウイルスブロッカーもウイルスに対する予防効果がないとは言い切れない。
何しろ、検証対象はたった4件で、検証は今から3年前だ。
その後、一般的なウイルスに対する効果のあるウイルスブロッカーが開発されている可能性がないとは言えない。
メーカー側の根拠は弱い
しかしながら、ウイルスブロッカーのメーカー側がウイルスに対する予防効果が期待できるとする根拠に二酸化塩素の除菌効果をあげるだけでは弱いと考える。
二酸化塩素の除菌効果はモノに付いたウイルスに対する除菌効果だからだ。
空気中のウイスルに対する除菌効果(空間除菌)は同じとは言えない。
メーカー側がせめて、新型コロナウイルス以外のコロナウイルスに対する実験を行い、ウイルスブロッカーのウイルス予防効果を確認できれば、新型コロナウイルスにも予防効果を発揮する可能性は残るが、私が調べた範囲では、現段階でそれを行っているメーカーはない。
結論
現段階では、ウイルスブロッカーは新型コロナウイルスにの感染予防効果を期待できるのかできないのかについはあるともないとも言えない状況だ。
しかし、「ある」とは言えないが、「ない」と否定する根拠もない。
但し、医療機関がウイルスブロッカーを使っているケースもあるので、効果を期待させる要素はある。
効果は分からないが、「安心」を得る為に付けている方も多いようだ。
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